ボルドーワインを売っているこのサイトで書くのはどうかと思うタイトルですが、事実なのでそれを受け入れた上でこのコラムを書いています。
2024年のビックニュース
ボルドーの有名ワイナリーが売りに出ました。
売りに出る少し前から話題には出ていて、正直とても驚いたニュース。
具体的なワイナリー名は控えますが、日本のワインコンクールでも優勝していたり、私も毎年何本か購入するワイナリー。
樽の効いた白ワインが優秀で、好きなワインの一つでした。
格付けワイナリーではないですが、そこそこ有名です。
どれくらい有名か。ソムリエ協会の遠足でこのワイナリーが売りに出されるという話題が出ましたが、みんな名前を知ってたくらいには有名です。
日本にも輸入されてるワイナリーです。
ただここ数年(というか2017年頃から)毎年天候に付いていけずに生産量が激減している印象を受けていました。
毎年何回か訪問したけど、ここ数年は熟成セラーがとても広く感じるほど(いや、そもそも広いんやけど)樽が少なくて…。
こだわりがしっかりあるが故に生産量を減らしても品質に重きを置いていて。
とはいえ値段を上げるわけにはいかない、そんな苦悩があったのでは?と想像します。
そしてこの後いくつかのボルドーワイナリーが売りに出ると噂に聞きます。
ボルドーに来てまもなく12年経つ私の体感をお伝えします。
あくまでも私の見ている世界なので、他の人に聞くと違う世界が広がっていると思います。
ボルドーワイン=ビジネス
とある方に言われたことがあります。
ボルドーワイン業界はビジネス色が強い、と。
ちなみに、このとある方はフランスには住んでいるけどボルドーに住んだことはないし、多分来たこともない人。
確かにビジネス色が強く見えるかもしれません。
でもそれってすごく一部しか見てませんよ。
ボルドーのワイナリーは1万近くあると言われています。
その内、名前を言えるワイナリーはどのくらいありますか?
格付けワインにしか見てないですよね?
ネゴシアンしか見てないですよね?
それはみんなスーツ着て仕事してますよ。
だってそれが彼らの仕事ですもん。
営業職ですもん。
でも大手ワイナリーにもブドウを栽培している人はいますよ。
手を真っ黒にしながら土いじりをしてる人はいますよ。
毎日毎日品質管理をして、作業に明け暮れる醸造家もいますよ。
彼らがいないとワインはできません。
時にはスーツを着るかもしれない、でも長靴を履いて、泥臭く仕事してますよ。
一部の超有名ワイナリーとその他
ボルドーはネゴシアンが力を持っています。
彼らのお陰でボルドーワインがこれほどに発展したと言っても過言ではないです。
(もちろん他の要因も沢山あるけど)
ネゴシアンがいるから、格付けワイナリーがいるから、ボルドーがこれほどに有名になったと言っても過言ではないです。
ここからはこのアリエノールを作った理由に繋がるのですが、ここ数年沢山のワイナリーの方と話しました。
お客様に同行したり、プリムールでは大手ワイナリーに行くことが多い私。
設備投資を沢山していて、品質の良いワインを造るのに余念がないです。
そして小さなワイナリーの人ともかなりの頻度で会っています。
彼らにとても大きな、大きな問題が降りかかり始めたのはここ数年。
小さなワイナリーと言っても大小様々です。
ブルゴーニュの様な小さな小さなワイナリーから、中堅またはとても大きい(畑は沢山)けど無名なワイナリーまで。
沢山の人と話すことで、色んな角度からの想いを聞くことができたのは、アリエノールを作りたい原動力にもなりました。
アリエノールへの想い
少し脱線させてください。
私がアリエノールを作りたかったのには、ボルドーのイメージと、実際のボルドーに大きなギャップがあると感じたからです。
美味しいのに売れない、そんな無名ワイナリーを沢山見てきました。
折角ボルドーに居るのだから格付けワインを輸入しないの?と聞かれましたが、これは絶対にしません。
なぜなら私の想いと反するから。
あ、私格付けワイナリーのワインとても好きです。年間通して試飲会にも行くし、訪問もするし、とても好きです。
好きなワイナリーのワインは自分でも購入するほどに好きです。
でも、自分で輸入するのは気軽にオーナーさんと話せるワイナリーが良かったんです。
私の好きな小さな作り手のワインを皆さんに紹介したかったのが、アリエノールを作りたいと思った最初の理由です。
無名なボルドーのワイナリーをお伝えしたいと。
小規模生産者の悩み
ここ最近、小規模生産者の方々と話すことが良くあります。
小規模と言っても様々。
ボルドーのネゴシアンを通じて世界中にワインを送っている人や、個人的に世界のインポーターやフランスのショップの方と直接契約している人まで。
まずはネゴシアン経由でワインを世界に伝えている小さなワイナリーについてのお話をしたいと思います。
ここ数年、ボトルやコルク、キャップシールなどワインづくりに欠かせないモノの値段が上昇しています。
空っぽのワインボトルを販売しても2€前後になるほどに。
あとはどれだけこだわりを持ってこれらのものを選んでいるかによってもちろん値段が変わりますが。そしてもちろん税金も。
数年前、有名でないワイナリーの息子さんと仲良くなりました。
私がフランス語で話した会話を言葉にすると、関西弁になりますがご容赦を。
私「跡継ぐんでしょ?」
彼「赤字続きやからそもそも継げるかわからない。ワインは作りたいけど、どうなるんやろう…。」
私「え、そんなに大変なん?」
彼「そうやねん。ネゴシアンがうちのワインめっちゃ安くしか買ってくれへんくて。売れば売るほど赤字になる…。」
彼「設備投資もしたいし、もっとワイン作りたいけど、それでもどうなるかわからんし。僕が継げるかもわからん…。」
この息子さんは醸造を学ぶためにいろんな国でワインづくりを勉強していて、最近実家に戻ってきました。
実際このワイナリーのワインは美味しいし、でもアペラシオンボルドーで。
有名ではないワイナリーはネゴシアンに値段交渉をされるそうです。
1€でも安く。1サンチームでも安く。
ワインづくりにかかるお金を回収できずに翌年を迎える。
天候被害で生産量が減る。でもネゴシアンは購入金額を上げてくれない。
頑張れば頑張るほど、作れば作るほど赤字になる…。
ボルドーのワインの作り手は皆お金持ち、というのは今となっては幻想なのです。
ネゴシアンがいることの弊害
ネゴシアンは世界につながりを持っていて、世界中にワインを売る、そして彼らのおかげで有名どころのワインは世界中同じような価格で手に入れることができます。
そして各国の言語でワインの説明を受けるなど、いろいろなメリットがあります。
ネゴシアンがいることのメリットは沢山あるので、あえてここでは書かないことにします。
さぁ、弊害について。
ボルドーのワイナリーは営業をネゴシアンに頼り切っているところが多いです。
自社に営業担当がいないこともしばしば。
そうすると、ワインを販売するノウハウがないワイナリーが生まれます。
いくらいいワインを造っていても、ネゴシアンからの評判が悪いと、ネゴシアンにとって良い金額で販売しないと、折角作ったワインが売れないと言うことが往々にしてあります。
そして最近はネゴシアンですらボルドーワインを売ることが難しい。
ボルドーワインの窮地です。
そうなると、ネゴシアン達は格付けでないワイナリーのワインを買ってくれない。
ただでさえワインそのものではなく値段しか見て貰えていないから。
有名でないワイナリーのワインを買ってくれない。
そうなるとお金がないので人を雇うこともできない。
でも売り方を知らない…。ということをここ最近耳にします。
プリムール2023
ボルドーにはプリムールというシステムがあります。
ここであえて詳しくは書きませんが、先物買いのシステム。
2023年物のワインの試飲を2024年春にしました。
2023年のワインは値段が下がる…のですが…。
2023年プリムールはあまり人が来ませんでした。
それは何故か。
「3」の年だから。
前評判が良くないから。
その他いろいろな理由でそもそもプリムールに参加した人が少なかったのです。
そうなると相対的に点数をつける人も少なくなる。
個人的には2023年ワインは悪くなかったと思っています。
決して悪いビンテージではないです。
前評判よりはとても、とても良かった。
でもリリース前から評判悪いですよね。そうすると値段が下がります。
そもそも試飲してる人の人数も少ないですし。
ボルドーワインは世間の評判等々にかなり左右されています。
大手が下げると、全員が下げます。だって売れないから。
品質と値段が比例していないことも良くあります。
ボルドーに居て感じること
私はソムリエ協会にも所属しているし、仕事柄沢山のワイナリーに行きます。
そしてもれなく沢山の人とお話をする機会があります。
みんながみんな口をそろえて言います。
「ワインが売れない」
今までは「いやー、最近厳しいよね。頑張らなきゃ。」って感じでしたが、今はそんなことも言ってられない。
世界的な情勢の影響を受けるボルドー。
自分達の力だけではどうにもならない、そんな大きな力を感じるここ最近。
観光業
ワイナリーへの通訳同行をよくしているのですが、今年は観光客の多い夏の間だけ雇われる期間限定のガイドさんを雇わないと決めたワイナリーも多かった印象。
ボルドーのワイナリー見学は、しっかり1~2時間かけて見学&試飲するところが多く、基本的には有料なんやけど、今年は観光客が少なくなるだろうと予想したワイナリーがそこそこありました。
実際、忙しそうにしているところも多かったし、街を歩いていても観光客の数はそれほど減った印象はなかったけど。
とはいえ、世界的にボルドーワイン離れが進んでいるんだろうなぁと感じる一幕。
私自身はコロナ以降、観光系のお仕事の忙しさに予想がつかなくなりました。
今まではゴールデンウイークから11月くらいまで山なりに忙しくなっていたのに、ここ最近は全く予想がたたない。
ものっっすごく忙しい時と、ものっっすごく暇な時の格差が激しい。
予測がつかないから、仕事のバランスが取れなくて、少し困っています。
レストラン
ボルドーのレストラン、私がフランスに到着したころはフレンチしかなかったと言っても過言ではないくらい、フレンチばかりでした。
少しのインディアン、少しのラーメン、少しの中華。
でも大多数はフレンチでした。
そして飲めるワインもボルドーワインばっかり。
今は色々な種類のお酒が飲めるお店が増えてきました。
ボルドー以外のワインもですが、ビール専門店やカクテルが飲めるお店も。
色々なものを口にできるのは嬉しいけど、ボルドーだけを見てもボルドーワインの消費量が減っていると実感します。
ボルドーワインの値段
ちょっとボルドーワインの危機というテーマからはずれてしまいますが、ワイナリーが1万ちかくもあることも相まって、ボルドーワインの価格も様々です。
私はボルドーワインを飲むことが多いけど、10€以下のワインを飲むことももちろんあります。
地域によっては10€以下のワインはあまり美味しくないことも多いけど、ボルドーは選べば美味しいものも手に入ります。
フランス以外のワインと比べるとやっぱり高いけど、それでも価格とクオリティを比べると、比較的リーズナブルなワインも多いのではないかという印象。
まとめ
話が行き来してしまって、あまりまとまりのない文章で申し訳ないです。
ボルドーワインが古い、とそういう印象も多い昨今ですが、ボルドーワインって良いけど無名なワイナリーも本当に多いんです!
格付けだけが全てじゃないんです。
だって、格付けワイナリーって上位何%?
90%以上のワイナリーが無名で、毎日畑作業を頑張っている方々で。
このボルドーワインの危機は、ボルドーの実態と外から見えるボルドーの印象が全然違うから起こっているんじゃないのかなぁと思う私。
結局何が言いたいのか、凄くわかりにくい文章になってしまいましたが、ボルドーワイン業界をみんなで応援しましょ!
皆様にご紹介したいワイナリーがいくつもあるのですが、売れない輸入決定も難しく。
私事の愚痴ですいません。
これから現地情報もできるだけ共有しますね。
そしてアリエノールもどうぞよろしくお願いします。